腰の筋群の不調を原因とする筋筋膜性腰痛、頸部痛などの慢性疼痛性疾患の中には通常の整形外科治療で痛みが治まらないケースが時々見受けられます。

これらの痛みに対しては鍼治療が時に効果を発揮します。

実は、トップアスリートのスポーツ現場では疲労回復、筋肉痛に対して、鍼治療が非常に多く用いられているのです。

鍼治療の特徴

一般整形外科で鎮痛処置として体に電極を付けて微弱な電流を流す低周波治療は広く行われております。よく患者の皆さんが『電気を当てる』と表現される治療法で、筋肉疲労、筋肉性疼痛の改善といった効果が期待できます。

これは体の表面に電流を流すことから経皮的電気刺激法と呼ばれ、主に皮膚に近い体表筋を収縮させ、マッサージ効果を得ることが出来ます。

しかし、体には体表筋の奧に深層筋と呼ばれる筋肉群があり、慢性筋肉性疼痛疾患の原因になっていることがあります。これは皮膚より深いところにある筋群であるため、手によるマッサージ及び体表電流では十分な刺激が加わらず、治療効果が得られないケースが出てくるのです。

鍼治療においてはこれら深層筋に鍼を進めたうえで、微弱電流を流す鍼通電療法を行うことにより体表電流では刺激できない深層筋に対しても治療を行うことが可能となるのです。

鍼治療の効果

(1)筋ポンプ効果(疲労回復)

筋肉運動後は疲労物質である乳酸が生産され、筋肉疲労、筋肉痛の原因となることは広く知られております。運動後はこの乳酸を出来るだけ早く筋肉内の静脈系に流し込み、代謝させることが大切です。

しかしスポーツなどで酷使した筋肉は所々微少な断裂を起こした状態であるため、腫れて体積が増加します。この筋肉体積の増加により深層筋の筋内圧は表層筋に比べより高く上昇し、筋肉内の細い静脈が圧迫され血流が低下してしまうのです。

鍼(鍼通電療法)はこの深層筋に電気刺激を加えることにより深層筋の収縮、弛緩を引き起こし、筋肉内の細くなった静脈をポンプのように揉む効果により血流を増加させ、疲労物質である乳酸の代謝を促進させるのです。

これは筋ポンプ効果といわれ、速やかな疲労回復効果を得ることが出来ます。

(2)内在性オピオイド分泌効果(鎮痛)

人の体の中には疼痛を和らげたり多幸感をもたらすエンケファリンやエンドルフィンといった内在性麻薬物質が存在し、これらは総称して内在性オピオイドと呼ばれています。内在性オピオイドは筋肉痛などの内因性疼痛時には生成されないのですが、外部刺激による疼痛やストレスを受けたときに生成され、これが脳や脊髄にあるオピオイド受容体に結合し、鎮痛作用を発揮します。

鍼は刺入の痛み感じないほど細い針を用いるのですが、皮膚や筋肉には外部刺激として認識されるため、鍼を打つことの刺激が内在性オピオイドの分泌を促し、筋肉痛などに対して除痛効果が得られると考えられています。